前回、マラゴスで口にした一粒のカカオが、YouTubeの画面の向こうにいたサンフランシスコのチョコレート職人たちと、どこかで繋がっていることに気づいた話をした。
「あの晩、私は眠れなくなった。」
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「Tree to Bar」という思想
2010年前後、サンフランシスコで小さな革命が静かに始まっていた。
きっかけを作ったのは、テック業界を離れた二人の青年だった。彼らは「美味しいチョコレートを作りたい」というただそれだけの動機で、カカオ豆から板チョコまでのすべての工程を自分たちの手で行うという、当時としては非常識な選択をした。
大量生産のチョコレートは、カカオ豆の産地も、農園の顔も見えない。原料は商社を通じて調達され、味は均一化のために調整される。
彼らが目指したのはその真逆だった。
産地を選び、農園と直接つながり、一粒の豆が持つ個性——土地の気候、発酵の技術、農家の手間——をそのまま板チョコに閉じ込める。
これが「Bean to Bar」、さらに一歩踏み込んだ言い方をするなら「Tree to Bar」という考え方だ。
樹から板まで。すべての工程に、作り手の哲学が宿る。
情熱は、海を渡っていた
面白いのはここからだ。
この思想は、太平洋の向こう、日本にもすでに根を張っていた。
東京の小さな工房で、フィリピン、ベトナム、ペルーといった産地の豆と直接向き合い、一粒ずつ焙煎の温度を変えながら、その土地でしか出せない味を探し続けている職人たちがいる。
彼らのSNSを覗くと、投稿の半分近くが「産地の話」だった。
どの農園の、どの品種の、どんな発酵方法の豆なのか。
チョコレートそのものより先に、豆の来歴が語られる。
私はこれを見て、ようやく腑に落ちた。
彼らが本当に探しているのは、美味しいチョコレートである以前に——**信頼できる物語を持った豆**なのだ。
カリナンの苗木を見ながら
庭のプランターで、まだ頼りない苗木が揺れている。
しおれた葉、育ち始めた葉。うまくいっていないものも含めて、私はこれをすべて記録すると決めている。
もしいつか、この土地のカカオが誰かの手に渡り、板チョコになる日が来るとしたら。
その時に語れる物語を、私は今、まさに積み上げている最中なのだと思う。
日本の職人たちが探しているものと、ダバオの土で今起きていることは、たぶんそんなに遠くない場所にある。
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Next Episode… Season 1:Ep.3 日本のクラフトチョコレートの現場を歩く

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