【S1-Ep.0】予定調和の終焉:庭に突き立てたスコップと、一本の苗木


「予定調和の終焉:庭に突き立てたスコップと、一本の苗木」

ダバオのねっとりとした朝の湿気が、Tシャツをじりじりと肌に張り付かせる。目の前には、昨日まで確かに生命を宿していたはずの苗木。その葉が、力なく茶色く丸まっている。

「……嘘だろ」

これまでの長い人生で積み上げてきた「予測」も「効率」も、この小さな命の前では何の役にも立たない。土にはマニュアルもなければ、やり直しのきくバックアップもないのだ。

61歳。すべてを投げ打ってここへ来た自分の決断が、泥にまみれた手と一緒に、ひどく無防備で滑稽なものに見えた。腰に走る鋭い痛み。これが、自ら選んだ「Tree to Bar」の洗礼か。

私は、傍らに置いた冷えたボトルのキャップを捻った。喉を焼く苦味が、迷走しそうな思考をかろうじて現実に繋ぎ止める。事実は、甘くない。

なぜ、私は安定したリタイア生活を捨て、この南国の庭で泥にまみれているのか。 時計の針をほんの一週間前、フィリピンの深い緑に抱かれた聖地――「マラゴス」から戻ったあの夜まで戻さなければならない。


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